生活習慣の改善で血液を健康に

動脈硬化の原因「脂質異常症」について、新たな診断基準が決まりました!

いなば院長からの医療コラムです。(2018年3月23日)

動脈硬化の原因「脂質異常症」について、新たな診断基準が決まりました!

動脈硬化の原因「脂質異常症」について、新たな診断基準が決まりました!脂質は血液内では比重が軽いため、全身を流れるためには、タンパク質と結合し、「リポタンパク」という乗り物に乗って、血中を流れています。このリポタンパクに含まれる脂質には、「コレステロール」「トリグリセライド(中性脂肪)」「リン脂質」「脂肪酸」などがあり、LDLに含まれるコレステロールを「LDLコレステロール(悪玉コレステロール)」、HDLに含まれるコレステロールを「HDLコレステロール(善玉コレステロール)」といいます。LDLコレステロール(悪玉)は、血管内壁にコレステロールを蓄積し動脈硬化の一因になります。HDLコレステロール(善玉)は、血管内壁のコレステロールを取り去り、肝臓に運び処理する役割を持っています。コレステロールをはじめとする元来、これらの脂質には、三大栄養素(脂質・蛋白質・炭水化物)としての役割の他に、身体の体細胞膜を構成し、また、消化液の一つである胆汁酸や副腎皮質ホルモンなどの代謝の為の重要な材料にもなります、どれも身体にとって必要な物質です。しかし、悪玉コレステロールが増えすぎたり、善玉コレステロールが減りすぎたりすると、動脈硬化を進めるなど、身体に悪影響を及ぼします。かつては、「高脂血症」と呼ばれ、LDLコレステロールやトリグリセライドが増加した状態を指していましたが、HDLコレステロールが減少することも動脈硬化のリスクを増やすことが分かり「脂質異常症」という名称になったのです。
脂質異常症には、①LDLコレステロールが多い「高LDLコレステロール血症」②トリグラセライドが多い「高トリグリセライド血症」③HDLコレステロールが少ない「低HDLコレステロール血症」などがあります。  
昨年、5年ぶりに改訂された日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では、脂質異常症の診断基準を表のように示していますので、ご紹介いたします。どの基準にも、総コレステロール値が、基準に無いことにお気づきかと思います。
総コレステロ-ル値ではなく、その個々の数値の内容の方が、その意義や、値に価値があるからです。それでは今回の改定の概要についてお話しします。

 

【表】脂質異常症の診断基準(空腹時採血)

LDLコレステロール 140㎎/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139㎎/dL 境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール 40㎎/dL未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセライド 150㎎/dL以上 高トリグリセライド血症
Non-HDLコレステロール 170㎎/dL以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169㎎/dL 境界域高non-HDLコレステロール血症

日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」から

 

今回のガイドラインでは、高・境界域高non-HDLコレステロールの診断基準が追加されました、これは、中性脂肪が400mg/dL以上と非常に高い人や、空腹時(10時間以上の絶食)でない食後採血の場合でも用いることができるものです。  
LDL(悪玉)コレステロールが増えすぎると、全身の血管壁の内側にコレステロールがたまってプラーク(血管内壁の垢)ができ血管内腔が狭くなり、動脈硬化が進行します。HDL(善玉)コレステロールが減りすぎると、血管壁内側にたまったコレステロールが回収されなくなり、やはり動脈硬化が進行します。また、トリグリセライドが増えると、HDLコレステロールが減るとともに、LDLを小型化し超悪玉化して、更に動脈硬化を悪化しやすくさせます。

 

まずは生活習慣の改善から始める
動脈硬化の原因「脂質異常症」について、新たな診断基準が決まりました!通常、脂質異常症では、自覚症状がないことが多く、検査を受けないと気がつかないことがあります。従って、日頃からきちんと健診を受け、血液検査を行うことが大切です。異常があれば、日本人に多い「家族性高脂血症」かどうか調べた上で、場合によっては頸動脈の超音波検査、冠動脈造影コンピューター断層撮影(CT)検査などで血管の状態を確認します。特に、頚動脈の超音波検査は手軽で、当院でも予約検査が可能です。 脂質異常症の診断後は、まずは生活習慣の改善に取り組みます。禁煙に加えて適度な有酸素運動を行うとともに、食事療法として、トータルのカロリー摂取量を減らします。その際、肉類などの動物性の飽和脂肪酸を減らし、魚類の多価不飽和脂肪酸を増やすとよいでしょう。青魚に多く含まれる多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)には、LDLコレステロールを増やさず、トリグリセライドを減らす働きがあります。また、卵黄や魚卵を控え、調理の際に、バターやラードなど動物性脂肪ではなくオリーブオイルなど植物性脂肪を使うようにしてもよいでしょう。バターや卵黄を使用した典型的な食品は、カスタードクリーム・アイスクリーム・ケーキ・クッキー・洋菓子・菓子パン・マヨネーズなどです。(ご注意を!)  
運動療法の基本はウオーキング(速歩)や水中運動などの有酸素運動です。あるいはストレッチなどの無理の無い筋肉トレーニングなど、ある程度の負荷がかかるものも有効です。ただし、心臓に疾患があったり、高血圧があったりする人は、きちんと医師の指示に従って行うようにしてください。 加えて、喫煙も狭心症や心筋梗塞の原因である上に、HDLコレステロールを減らします。禁煙に努めてください。

 

根気よく治療を続けることが大切:主治医の先生と連携を取り、こまめなチェックを!  
こうした生活習慣の改善で効果がなければ、薬物治療を行います。LDLコレステロールが高ければ「スタチン系薬剤」を、中性脂肪が高ければ「フィブラート系薬剤」やEPA・DHAなどを使用します。効果が不十分であれば、他の薬剤を併用します。  薬剤は、血圧の薬と同じように、服薬を中止するとほぼ3カ月で、元に戻ってしまいます。たとえ、一度、脂質値が改善しても、生活習慣が戻ってしまえば、再度悪化しますので、根気よく治療を続けることが大切です。「サイレントキラー」ともいわれる脂質異常症は、誰もが発症する可能性のある疾患で動脈硬化の強い危険因子です。また、高血圧や糖尿病、心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化病変の既往のある近親者のいる方、また肥満・メタボリックシンドローム・喫煙なども動脈硬化の危険因子となります、また、高血圧症・糖尿病・脂質異常症・認知症はお互い関連し合う4大生活習慣病といえます、日頃からの生活習慣の改善を心掛けて参りましょう。

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